このライトノベルがすごい!文庫創刊

というわけで、毎年その年のライトノベルで何が流行っていたのか? そして、これからのライトノベルでどんなものが来るのか? というのを鋭く切り取っていた「このライトノベルがすごい!」を刊行している宝島社から、新たにライトノベルレーベルが誕生しました。
その名も、
このライトノベルがすごい!文庫
です。


というわけで、創刊ラインナップの5作を読んだわけですが、非常に面白かったです。
もちろん、どれも作品自体がとても面白かったんですが、それ以上に、既に飽和しているとも言われている「ライトノベル業界」に新規参入するという、非常に冒険をした「このラノ文庫」が、どういう方向を目指しているのか? というのが、とても良くわかるラインナップになっているのが、とても興味深かったです。


「突然ヒロイン」「男の娘」「異能」「ツンデレ」「意思を持った機械」などなど、いわゆるアニメ的/ゲーム的な要素を含みつつも、その組み合わせ、まとめ方などが、とても特徴的。
「今までになかった」とまでは言えないかもしれないけど、これまでのいわゆる「ライトノベル」では、各レーベルで1年に1度出ればいいくらいじゃない? という異色作ばかりが、そのレーベルの方向性を決める創刊ラインナップに、しかも、全て新人でそろえられるというのは、それなりに覚悟が必要なことだと思うし、それだけ「このラノ文庫」のやる気が感じられることだと思います。


──そんなわけで、このラノ文庫の今後にはとても期待しているわけですが、ひとつ懸念事項があって、ぼくがこれだけ面白い! とか思ったものって、だいたい売れないんですよね……

ランジーン×コード/大泉貴

ランジーン×コード (このライトノベルがすごい!文庫)

ランジーン×コード (このライトノベルがすごい!文庫)

第1回此のライトノベルがすごい!大賞の、大賞受賞作です。
遺言詞によって、独自の形で世界を認識するようになった者たちが織りなす、運命の幻想詩。
これは、5作品の中では、一番オーソドックスな──今まで出版されている、いわゆる「ライトノベル」に近いかもしれないです。


言葉=世界の認識、という図式は、先行作品にも見られるものかもしれないですけど、言葉の連なり=物語、そして、物語の記述、というところまで踏み込んで描くというのは、とても良い着目点だと思います。
主人公による「物語の記述」と、とある人物による「絵の描写」という、ふたつの構造というか、行動の対比などで考えると、(あとからですけど)「あー、そうだったのか!」と膝を打つことうけあい!


終盤、彼ら/彼女たちがあがき、そして、立ち上がり戦う姿には、思わず鳥肌が立ちました。

僕たちは監視されている/黒田和登

僕たちは監視されている (このライトノベルがすごい!文庫)

僕たちは監視されている (このライトノベルがすごい!文庫)

こちらは、金賞受賞作。


「IPI症候群」と呼ばれる病に冒された患者のために、自らの日常を「中継」する「IPI配信者」の友情と青春の物語。
これは、すっごく現代的だと思った。
たぶん、アメリカとかイギリスの作家がこんなの書いてたら、何年かあとに日本の書店に青い背の文庫で並んでそうな感じ。


「見ている/見られている」という構図があって、そこに、拙いコミュニケーションが繋がり、そして、秘密と想いが重なる。
うん、とっても好みでした。


かわいらしいイラストとは裏腹に、ちょっと重たくて、ちょっとダークで、ちょっと鋭くて、でも、とっても暖かくなる小説です。

伝説兄妹!/おかもと(仮)

伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫)

伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫)

これは特別賞!


これはすごい! ほんと、他じゃ読めない!
自意識過剰で金がないダメ大学生と奇妙な出会いを果たした少女の、心温まるハートフルストーリー?
ハートフル?
ハイテンションと勢いと、笑いと涙と、とにかくぐだぐだ言わずに読めばわかる! という小説でした。
これは、本当に人を選ぶかもしれないけど、はまれば楽しく読めるはず。
なんつーか、ほんとにすげぇ!
これが感動というものか!?
とにかく、いろいろすごかった……


あ、ちなみに、作中で出てくる「ビクトリア」はファミレスです。
小樽築港は、小樽の隣の駅です。
近くには、港関連の施設とか観覧車とか、石原裕次郎記念館とかあります。
地獄坂は、すごい坂です。
小樽商大は、小樽にある国立大学です。
という、道民以外には知られてないような小樽知識があると、より楽しめるかもよ♪

暴走少女と妄想少年/木野裕喜

暴走少女と妄想少年 (このライトノベルがすごい!文庫)

暴走少女と妄想少年 (このライトノベルがすごい!文庫)

ええと、優秀賞!


鎖骨折られたり監禁されたりもしたけれど、ぼく、元気です……という青春コメディ!
「友達ってなあに?」
っていうのは、MF文庫の「僕は友達が少ない」でも描かれてるとは思うんだけど、あっちはなかなか本題に入ってくれないというか、結局そのところには触れないで終わるんじゃね? とも思い始めてるので、「友達」というものをテーマにしたものっていうのは、ちょっと珍しいのかも、と思ってたりします。


タイトルとか表紙から、普通のドタバタラブコメ? と思うかもしれないですが、それだけじゃないところが、とても好感が持てました。
いや、もちろん、そう言うところがないわけじゃないし、タイトル通りの妄想だし……
5作の中では、一番ストレートに読めるかも、と思うので、「このラノ文庫、どれから読んでみよう……」と悩んだときには、おすすめかも、です。

ファンダ・メンダ・マウス/大間九郎

ファンダ・メンダ・マウス (このライトノベルがすごい!文庫)

ファンダ・メンダ・マウス (このライトノベルがすごい!文庫)

これは、あの栗山千明賞!
まさに宝島社だからこそ設けられた賞だと思います!
そして、今回の5作の中で一番の問題作じゃないかと。


読んで思ったのが、
「九郎という名前は、ライトノベルでは呪われてるんじゃないのか……」
ということ。
あれですよ。中村九郎ですよ。
いや、中村九郎とはちょっと違うんですけど、同じような匂いというか、感触がしたんですよ。
歪で、奇妙で、でも、とても愛おしい感じ?


いわゆるおしゃれな横浜というよりも、「私立探偵濱マイク」のような、黄金町、伊勢崎町、日ノ出町のような、どこかすえたような匂いがする、そんな横浜を舞台にして、スラップスティックでドラマティックなストーリー。
疾走し続けるようなドライブ感と、サイケデリックな酩酊感。


いや、マジでこれは面白い!
5作の中では、一番好き!
まるで、タランティーノの映画を見てるような感覚になったり。
そりゃ、栗山千明も好きだよなー、とか、妙に納得してしまいます。


とても、奇妙なんだけど、でも、とても気持ち良い小説でした。