東京都の「非実在青少年規制」から見る現状認識の齟齬

非実在青少年」なんていう結局何者かよくわかんないものに対して表現の規制をかけようという都条例が制定されようとしていて、ネットなどでは話題になっています。
詳しくはこちらなど。


ちなみに、都条例から引用してみると、

第七条中「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」を「次の各号のいずれかに該当する」に改め、同条に次の各号を加える。
 一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
 二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を資格により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

というあたりが特に問題になっているのかな、と。
#個人的には、もう、全体的に問題じゃね?くらいに思ってますが……


で、これの対象として規制されそうになっているのは主にマンガ、アニメ、ラノベなどだと言われています。
ネット上には、都側に確認してみた例などもありますが、条例が制定された場合には、どうやら、いわゆる「一般小説」を対象にはしないというきわめて恣意的な解釈の元で運用されそうです。

って感じで。


ええと、この条例がどれくらい問題か? というのは、いくらでも出てきそうなので、ここでは特に触れないとして、なぜ、いわゆる一般小説はOKでマンガ、アニメ、ラノベなどはNGなのか? というあたりを考えてみたいと思います。


条文から読み取ると、これらの規制を行う目的としてあるのは、「青少年の健全な育成」ということになっています。
つまりは、
「青少年が触れるものは健全にしましょうね」
ということが趣旨です。


それじゃあ、内容的には性的だったり暴力的だったりするものが許されるのはどうしてか? となりますが、それらが許される理由として考えられるのは、
「そういったものは、青少年は読まない/見ないから大丈夫!」
という理由です。


つまり、

  • マンガ、アニメ、ラノベ等→子供の読むものだから規制対象
  • いわゆる一般小説→大人の読むものだから規制外

ということになるのかな、と。


ここで考えたいのは、もし、上の推論の通りに規制された場合には、
「青少年が読むべきもの」

「大人が読むべきもの」
とが一方的に決めつけられるのでは? ということです。


別に、作者側に青少年に害を及ぼそうという意図があって、そう言う場面がいられているわけではありません。
#もしかすると、そう考えてる人もまれにいるかもしれないけど……
性的なシーンも、暴力的なシーンも、それぞれ作品の中でのテーマ、伝えたいことの為に存在しています。
例えば、暴力的/性的な部分で簡単に規制されそうな深見真の「疾走する思春期のパラベラム」ですが、あの中では暴力もセックスも、自らの心の弱さと向き合い、そしてそれを乗り越えるためのメタファーとして描かれています。
自分のトラウマが武器になる、という設定は、それを端的に表しています。
これは、大人よりも、その悩みのまっただ中にいる中学生、高校生のほうが、ずっと心に響くはずです。


マンガ、アニメでも、同じように、青少年だからこそ読んで響くものが、規制される可能性があります。
#もしかしたら、「売れてるから」という理由で対象外とされたりするかもしれないけど……


と、少しずれてしまいました。
話を元に戻すと、

  • 青少年のためのもの
  • 大人のためのもの

というふうに、区分けされてしまうのでは? という危惧がある、ということが言いたかったわけです。
マンガとかラノベは大人だって読むし、アニメだって見ます。
でも、そういう人たちのことは考えられていないようです。


おそらく、
「普通は、大人になったらマンガやアニメは見ないで、小説を読んだり、トレンディードラマを見るもの」
とでも考えてるんじゃないでしょうか?
だから、マンガ、アニメなどを規制しても問題はない、と。


規制推進派の意図などはわかりませんが、もしかすると今危機にさらされているのは、
表現の自由
だけではなく、
「鑑賞の自由」
のようなものなのかもしれません。