暗黒童話(乙一)

「暗黒童話(乙一)」読了。
……いやー、良かった、乙一がトラックにひかれていなくて。
詳しくはあとがきをどうぞ。
それにしても、今回のあとがきはいつになく後ろ向きだったような気がするのですが。
ファウストのあれがきいているのでしょうか?
まぁ、そういう事はどうでも良いとして、暗黒童話です。
黒いです。
目の話を読んだとき、うしおととらを思い出しました。あの妖怪なんて言ったっけ……
ストーリーの詳しい説明だとかミステリとしてどうだとかそういう事はどこか他のところに任せておくとして、気になったのはやはりその発想でしょうか。
移植された目が様々な映像を映し始める――網膜を移植された人が同じような体験をするというのは、色々と噂というか都市伝説というか、そういったもので目にする事があります。
そこにどんなメカニズムがあって、果たして本当におこる事なのか、などはそれほど興味がないんですが、乙一がこれを題材にした事には非常に興味があります。
元々乙一のデビュー作である夏と私と花火と私の死体でも斬新だったのはその視点。
せつなさの達人と呼ばれるゆえんとなったスニーカー文庫の諸作でも重要なキーワードとしてあげられるのはその映像感覚。
逆にその映像を全く消し去る事で逆にビジュアルを明確に浮かび上がらせている暗いところで待ち合わせなどの小説。
ここまで書けば明白とは思いますが、乙一って非常にビジュアル的な小説家だなぁ、と。
ビジュアル系です。
で、映像というのは記憶というものの非常に大きな部分を占めているという事。
だから、記憶が不安定なときに映像が見えるようになり、
記憶が戻ってからは映像がしっかりとしたものになるというような。
記憶というものをアイデンティティと言い換えてもそれほど違和感は無く行けるんじゃにないかと。
とすれば、ホラーの本質というものは、自己存在の危機にあるのかなぁ、と思ったり。

[Today's tune]三つの世界/大正九年