疾走!千マイル急行(小川一水)

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

失われた祖国と、汚れきってしまった誇り。
それでも、自分の「国」を信じてひた走る豪華寝台列車
鉄道というものは、日常生活に欠くことの出来ない存在でありながら、同時にある種の非日常感覚をも感じさせる。
例えば、東京駅で東海道線が止まる隣のホームには、日本が世界に誇る新幹線が、その優美な姿を見せつけている。多くの通勤客が乗るオレンジの電車のすぐ隣に横たわる白色のそれは、日常から非日常への逃避を誘う天使のよう。
……と、ちょっとロマンチックに書きすぎたかな、と。
生活の中にありながらも、非日常を思わせる不思議な存在、それが列車なのかもしれない。


小川一水といえば、第六大陸など、エンジニアを生き生きと描くのがうまいけれど、本作でもやはりそこはうまいです。
エンジニアというエンジニアはほとんど出てきませんが、それにかわるのがサウザンドマイルエクスプレスに関わる職業人たち。
客室乗務員から機関士、軍人に至るまで、たとえ本国が失われることになろうともその職務を全うさせる姿はやはり、プロ中のプロと言っていいと思います。
やはりメイドさんは、どんなときでもにっこりと優しく微笑んでいるのがいいんですよ。
……いや、実のところフローリーはメイドじゃなくて客室乗務員なんですがっ。


ところで、物語の重要なファクターである、あるモノ。
ネタばれになるのではっきりとは書かないですけど、アレに関する問題というのは実に難しいもので、現実世界でだって、ああいうモノに対してどういう扱いをしたらいいのか? というのははっきり答えなど出ていないわけで。特に最近は、形のあるモノだけではなくてプログラムなどの形のないモノもどうするか? と言う話や、さらにはそういうものを隠していくのかオープンで行くのか、というのも非常に難しい問題になっているわけで。
情報産業に携わる者としては、それらの保護が重要なのは理解していつつも、オープンにしていく方があるべき姿では? と思ったりもするのです。
独自技術を守っていくことと、普及させるべき技術をオープンに広めて行くことに、きっと矛盾はないはずだと思う。
オープン技術を使って、独自のソリューションを創り出すことだって決して不可能じゃないし、実際そういう方向性を持っている企業だってあります。
これから、オープン技術はもっと実際の現場で使われるようになります。
……がんばって覚えていこうと思いますですよー。

[Today's tune]Last Train Home/Lostprophets