上高地の切り裂きジャック(島田荘司)

上高地の切り裂きジャック (講談社ノベルス)

上高地の切り裂きジャック (講談社ノベルス)

表題作のほかに、横浜の山手を舞台にした中編「山手の幽霊」が収録されています。
意識して読んでみると、島田荘司という人の小説が、彼が提唱する本格ミステリとして、非常に完成度が高いことがわかります。
冒頭で示される魅力的な謎と、論理のアクロバット、そしてあとに残る解決。
そのバランスがすごく見事なんですよね。
もちろん、それだけではありません。
例えば、「山手の幽霊」。
京浜東北根岸線に乗ったことがある方なら、「ああ、あのあたりか」と情景を思い浮かべることができるでしょう。
情景をただ描写するだけでも、十分に難しいことですが、島荘のすごいところは、情景を描写して、その上で目に見えない空気感、裏に隠れている闇の部分まで描き出すと言うところです。
「山手の幽霊」なら、高級住宅地と横浜という街が持つ、歴史に隠された闇を描いているんじゃないかと。
ほかに情景ーーとりわけ街というものの描写や使い方がうまいなぁ、と思うのが「異邦の騎士」。東横線の、しかも横浜よりを中心とした沿線が中心地です。
特別じゃないけど、大切な生活がそこにはあって、というのが感じられるのです。
田舎自慢だとか、気取った都会だとか、そういうのとは違って、本当にその街が素敵だなぁ、と思えるような。
……というわけで、何が言いたいかというと、どうせなら馬車道とか住んでみたいなぁ、とは思うものの、財政面で確実に無理な上に、東横線沿いも職場までの交通を考えるとちょっとなしかなぁ、ということで、どうやら私に島荘の小説舞台に住むことは無理なようです。

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