夢館(佐々木丸美)

夢館 (創元推理文庫)

夢館 (創元推理文庫)

「崖の館」「水に描かれた館」に続く、館三部作の完結。
北の大地に積もる、真っ白な雪。
清冽で、冷たい、そして、ふわふわと定まらぬ形のような、詩的な言葉。
論理と幻想は等価値となり、少女の想いを優しく描き出す。
──ボクに、もう幾ばくかの言葉がったなら、この、雪の小説の半分の魅力でも誰かに伝えることができたのに。


と、これ、すごく読む人を選ぶ小説なんじゃないだろうか?
水に描かれた館までは許容できた人でも、夢館はさすがにダメ、と言う人は、いると思う。
それくらい幻想的で、言葉が、少女の自意識が行間からにじみ出している。


──ボクが、百人浜の伝説を聞いたのはいつのことだっただろうか?
たぶん、自動車でそのあたりを透っているときに、祖父が話してくれたんだと思う。
札幌の某業界ではそれなりに名の通った人物だったけど、ボクが覚えているのは、好きな絵を描いている姿と、優しく笑う姿。
そんな祖父から聞いた話を、ボクは単純に怖い、と思った。
凍るような冬の浜辺。
呪詛のような犠牲者たちの声。
遠く青い北の海。


その海に、こうして今一度出会うことになるとは、思っていなかった。

[Today's tune]toward/ACIDMAN