閉じ箱(竹本健治)

「閉じ箱(竹本健治)」読了。
確か、天使の囀(貴志祐介)の感想で、ホラーは合わないとか書いたと思うんですけど、さっくりと前言撤回。
これがホラーだというのなら、非常にぴったりと合います。
多分、根本的な恐怖の質が違うんだろうと。
外部に主軸を置く恐怖と、内部からにじみ出る恐怖の違いと言うか。
外の怖いものは、「怖い」と言う認識を与えてもwell definedですけど、
内部の恐怖は、ただ「怖い」というだけでは十分ではないんです。
でも、きっとよくあるようなサイコキラーとかそういうのはまた違うんだろうなぁ、と。
人間の精神的なものに端を発しているというので類似なものに見えるかもしれないけど、そこまでいっちゃうと、またどうしても外部になっちゃうし。
人間の心の闇の部分が怖いんじゃなくて、
その闇と共存している光の部分の方がよっぽど怖いと言うか。
だんだんと取り留めなくなってきたので、具体的な内容に。
まず、「氷雨降る林には」。
雰囲気は昭和の日本映画、ただし中身は平成ホラー、みたいなっ。
……久しぶりなんで決まりません。
しかし、あとがきにもあるように連城三紀彦風の雰囲気に、しっかりと竹本健治の味付けがされていて非常に良いです。
そういえば、二人とも幻影城作家だなぁ。
「陥穽」「けむりは血の色」「美樹、自らを探したまえ」「緑の誘い」は、素直な心を失ってしまったミステリ読者なら、きっと結末を予測してしまうと思ます。
しかし、一筋縄でいっていないのはさすが。
予想通りのゴール、ただし位相まるごとずれてるよ、みたいなっ。
……すいません。
ちなみに、以前企画で「陥穽」の最後の一行、「もう何も聞こえない」というのを最後にもってくるようなショートショートを書いたりしてます。
興味のある方は、自作小説内にある「愛の言葉」をどうぞ。というより、読んでください。読んだら感想も。お願いします。
「夜は訪れぬうちに闇」は何か不思議な感じ。
一応は大学理系に分類される学部にいましたが、ほとんど物理はわからないので、
こういったものも気にする事無く楽しめます。
「月の下の鏡のような犯罪」……乱歩です。
そっか、どこかで読んだ事があるような雰囲気だなぁ、と思ってたんですが、全体的にみても、乱歩なんですよ。
「閉じ箱」。似非理系で駄目数学科だったんで、こういう数学もどきも大好きです。
細かいところなんて気にしちゃいけないです。
世の中には、自分の専門分野になるととたんに厳しくなる人がいますが、明らかにその自分の事を貶めようとしているもの意外は、それほど目くじらを立てる必要は無いと思ってます。
「恐怖」これはちょっと意外。恐怖を描くために恐怖を消し去るというのは。
「七色の犯罪のための絵本」これは、何とも難しいです。
ただ、自分としてはこういうものは非常に好きです。
というより、目指したい一つでもあります。
自分にとっての小説の完成型の一つは「筋のない小説」なので。
「実験」は後半の加速感が素敵。
「闇に用いる力学」は前半が好き。
「跫音」は雨に濡れた感覚が何とも言えません。
「仮面たち、踊れ」のラスト、非常に良いです。最高です。
気がつく前に、いっちゃってる感じが。


とにかく、面白かったです。
できるならば、夜に一人で読む事をおすすめでしょうか。

[Today's tune]the mullet burden/the Dillinger escape plan