電子の星 池袋ウエストゲートパーク4(石田衣良)

電子の星 池袋ウエストゲートパークIV (文春文庫)

電子の星 池袋ウエストゲートパークIV (文春文庫)

本格ミステリ好きで鬱な文章も好きで萌えてばかりいるので意外に思われるかもしれませんが、なにげにこのシリーズ好きだったりします。
重たい現実を、あくまでライトに生きていくというのは、今の世の中にあっているんだと思います。まぁ、だからこれだけ人気も出てるんでしょうけど。
実のところ、池袋に行ったことはなかったりしますが、石田衣良が描く池袋と、実際の池袋はどう違うのかなぁ、とか。最近は池袋方面にもとある喫茶店が増え始めているようなので、そのうちIWGPでもそういう喫茶店が出てくるのかなぁ、とか。
メイドとちょっとした恋に落ちるマコトとかって、まぁ、べたすぎですか。


ところで、電子の星の中の一編、ワルツ・フォー・ベビーでは、そのタイトル通りビル・エヴァンズのジャズが流れていたりするわけで、思いつくままに聴いてみた。
Waltz For Debbyというのは、ジャズの世界──いや、音楽の世界にある数少ない奇跡のうちのひとつなんだろうと思う。
ヴィレッジ・バンガードでの最終日に録音された、誰の耳にも疑いのない名演奏の数々。
そして、この最高の演奏が記録されることは、もう二度となかった。
こんなにもメロディアスでリズミカルなベースを聴かせることなく、天才ベーシスト、スコット・ラファロはその11日後に交通事故で夭折。
ビル自身もその最期は決して穏やかなものではなかっただろう。
離婚した妻や、兄の自殺。ドラッグでぼろぼろになっていく身体。
そんなこれから先起こるだろうという悲劇があるにもかかわらず、Waltz For Debbyの演奏はどこまでも穏やかで優しく、ささやくようなピアノに、包み込むようなベース、鼓動を重ねるようなドラム。
そう、あまりにこの音が切なすぎるから、きっと涙を止めることができないのだろう。

[Today's tune]Waltz For Debby/Bill Evans Trio