晩年(太宰治)

晩年 (新潮文庫)

晩年 (新潮文庫)

走れメロスの女生徒を読んだときにも思ったことですが、改めて書きます。
──おまえはおれか。
美しい情景を鮮やかに切り取る文章と、行間からにじみ出る、隠しきれない自我。
文章ひとつ、タイトルひとつをとったとしても、どれも切れ味鋭く突き刺さってきます。
だから、というわけではありませんが、読むのにとても時間がかかったり。
決して読みにくいというわけではないんですが、それよりも一文ごとにいろいろと考えてしまう自分がいて。
小説を書くという行為が、これほどまでに苦しい行為だとは。
最近は、PCで簡単に文章が書けるようになり、さらには、携帯電話をつかって小説を書いたりと、太宰の時代に比べれば、小説を書くことの垣根というのは低くなっていますが、それだけ書くことに対する覚悟というものもなくなってきているんじゃないかと。
少なくとも、太宰が苦しみながら原稿用紙に向かったのと同じ覚悟を、空いている時間にちょろっと携帯に向かっている人が持っているとは思えません。
……それが、悪いこととは言わないけれど、産まれる文章は似て非なるものだと思う。


一番好きなのは「葉」。
ストーリー的にはバラバラで、現在の読者が読んでも訳が分からない、の一言で切り捨てられそうですが。
日本橋の異国の少女の話が良いです。
二言、つぶやく、
「咲クヨウニ、咲クヨウニ」
という言葉が印象的です。