自作 無題

 春と言うには、まだ寒い。それでも、ひと月ほど前よりはいくらかは暖かくなったし、それにつられるようにして、桜の枝にひとつ、蕾がほころんでいた。
 それが、一昨日までの話。
 昨日、冬と、春の間に降る雨が、この街を冷たく濡らした。
 風も冷たく、そして強い。
 砂塵舞う。

 今朝、あの桜の蕾は、どこかへ消えていた。
 咲くことなく、落ちた蕾。
 その行く末を見たのは、いつでも不機嫌な、この三毛猫だけなのだろう。
 そのような、誰よりも先駆けて、儚く散っていった花を見たというのにも関わらず、今日も普段と変わらずに、物憂げに冷たい視線を送るのみ。

[Today's tune]桜のダンス/Number Girl