小指の先の天使(神林長平)

小指の先の天使 (ハヤカワ文庫JA)

小指の先の天使 (ハヤカワ文庫JA)

仮想というものと、人間の意識というものについて深く考察を入れてゆく短編集。
初期から最近のものまでかなりの長期間にわたり書かれた作品が収録されているけれども、テーマとして共通したところがあり、昔のものでも古くさくないのは当然ではあるんですが、そんなに昔から、私たちはこの問題を解決できないでいるのか! ということに、若干の驚愕を覚えたりもした。
神林長平の小説というのは、読んで終わり、というのではなくて、読んで、そこからどのように思考を始めていくのか、という部分が、他の作家の小説よりも強いような気がする。
扱っているテーマのせいなのか、それとも、小説の展開が思弁的なのか。
まぁ、両方なんだとは思います。
個人的には、「猫の棲む処」が好み。
ラストの、ソロンがひとり、歩み去っていく部分が非常に良いです。
ええと、なんというか、人の「不自由」な自意識と、人ならざるものの「自由」な意識というか、人間が勝ち得たものも確かにありはするのだけれど、その過程で失われたものがなにかあるのではないか? それは、野性だとかそういうものではなくて、「思考」というものの前提条件というか、「思考」を流していく上での1回路というか、そういうものが失われてしまったのではないか? とおもうわけです。
肉体の消失と、永劫と思えるほどに続いていく意識との対比が多く描かれているのも、興味深いです。


で、この文庫の解説を桜庭一樹が書いているわけですけれど、昨年の文学フリマのときにも書いたことですが、私の目の前で、神林長平桜庭一樹が運命の出会いをしたんですよね。
http://d.hatena.ne.jp/kazutokotohito/20051120
いやぁ、今思いだしてもあれはすごい場面だったなぁ。ひとりで密かに興奮してましたからね。


それにしても、最近どうもミステリ色が薄い日記になっている気がするんですよね。
元々はミステリ系小説サイトという設定ではじまっているサイトのため、もうちょっとミステリの濃い話をやった方が良いんだろうなぁ、と思ってはいるんですけどね。まぁ、思っているだけです。

[Today's tune]Day Of The Lords/Joy Division