さらわれたい女(歌野晶午)

さらわれたい女 (角川文庫)

さらわれたい女 (角川文庫)

最近、自分のミステリに対する思考というものがどんどんと変わっていっているのを感じていて、ちょっと前まではガチガチのいわゆる本格を好んでいたんですけど、最近は同じロジックを扱っているものでも、本格というよりはその過程というか、探偵と犯人の丁々発止のやり合いというか、先が見えないようなサスペンス性を楽しいと思うようになりました。
MYSCONの読書会課題本だった「扉は閉ざされたまま」の感想でも書きましたが、本格がどうこう言うよりも、リアルタイムで繰り広げられる、犯人と探偵のロジックの構築し合いが良いというわけです。──ライトノベルとかSFの人には、マルドゥック・スクランブル冲方丁)のブラックジャックのシーンのようなのが好きになった、といえば分かってもらえるのではないかと。
と、長々と前口上を述べましたが、「さらわれたい女」も、そういうサスペンス性の部分が面白かったんですよね。狂言誘拐という小説のスタート地点から、次々と事実が重ねられていくというか、いったい誰が事件を支配しているのか? という主導権の奪い合いというか、それを見てるだけではらはらしてしまいますね。
惜しいのは、もうちょっと正志にも後半絡んできてほしかったというところ。
後半、2者の間のやりとりだけになってしまったので、三つ巴の騙し合いになっていたら、もっと面白かったんじゃないかと。まぁ、その場合、不必要にストーリーがややこしくなってしまう、というのとトレードオフになってしまうわけですけど。バランスを考えて現在の状態になったんではないか、と思います。


ところで、これって元々講談社の方から出てたんですよね。
それが、なぜ今になって角川から?
いや、私も角川から文庫になって平積みになってたから買ったというのはあるんですが。
……そのあたりのところが、一番のミステリなのかもしれません。

[Today's tune]Dreams Burn Down/Ride