薬指の標本(小川洋子)

薬指の標本 (新潮文庫)

薬指の標本 (新潮文庫)

フランスで映画になったそうで、丸の内丸善で平積みになってました。
そんなわけで購入。
うん。これはまさにボクのような無教養な人間が考えるフランス映画のイメージそのもの。
人の思い出を「標本」にする男と、そこで事務をする女性。
失われた彼女の「薬指」と、男に贈られた「靴」。
寂しげなアパートの様子は、同潤会アパートの雰囲気を思いださせます。
そこに暮らす老女たちの生活も、現実からは少し離れた、どこか幻想的な雰囲気が漂います。
たぶん、同じ道具を使って、ホラー小説だって書けると思うんですが、そうではなく、あくまで幻想的で「きれいな」小説に仕上がっています。
もうひとつ収録されている六角形の小部屋も、雰囲気としてはほとんど同じ。
──ああ、こちらも古い建物が舞台だ。
廃墟趣味、というのとは少し違う、滅び行く美しさというか、そこにあらわれるこの世とは違う世界、そういうものを美しく、非常に美しく描いていると思います。

[Today's tune]欲情科学/大正九年