文学少女、二人
夏休みも終わって、ちょっとたった日曜日。僕はリンネと二人で街の真ん中にある公園にやってきてた。
「むー」
と、隣で難しい顔をしているのがリンネ。
秋の空はとても高く、青く澄み渡っていて、まさに小春日和というのがふさわしいくらい。
でも、リンネの顔は曇ってる。
こんな天気のいい日に、しかも外にいるのになんでって? それは──
「やっぱり、こんな日に読書なんてするもんじゃないわっ!」
そう、本を読んでるから。
今更説明の必要もないかもしれないけど、リンネは本を読むことで時を止められる”時載り”──しかも、その中でも何人かしかいない時砕き。
でも、リンネは本を読むよりも外で遊ぶ方が好き! という普通(よりもちょっと元気な)女の子なわけで。こんな日は思いっきり走り回りたいはずだ。それが、どうして(外だけど)おとなしく本を読んでるのか? というと、
「もう、Gもママも意地悪なんだから!」
どうしても外に行きたい! というリンネと、箕作家の有能な司書Gと、リンネのママさんの交渉の結果だった。
外に行きたいというのなら、外で本を読んできなさい! ということらしい。
「まぁ、今日は軽いからいいじゃない」
普段は持ってるだけで重くなりそうな(文字数重視の)本を読んでることが多いリンネだけど、今日は外に持って行くから、ということで、Gもママさんも手加減してくれたのか、普通の文庫一冊だった。
「そんな、軽いとかそういう問題じゃないのよ!」
言いながら、大きく腕を振るうリンネ。ぽーんと飛んで行く文庫。
「あっ!」
僕とリンネの声が重なる。
きれいな放物線を描いて飛んで行った本は、ちょうど良く(?)ベンチに腰掛けていた女の人にクリーンヒット。
「うわー。リンネ、ちゃんと謝ってこなきゃ……」
「も、もちろんっ」
二人、急いでその女の人のもとへ急ぐ。
「──いたた……どうしてお空から本が? はっ、これは、文学乙女の私に対する神様からの贈り物? ありがとう、神様!」
……その女の人の前で、固まる僕たち。
「あ、あの……大丈夫ですか? 特に頭とか」
リンネがおそるおそる話しかける。
「え、ええ。大丈夫よ。と、この本、あなたの?」
すぐに怒られるかと思ったけど、なんだか優しそうな微笑み。
「はい。すみませんでした……」
ぺこりと頭を下げるリンネ。僕も、一緒に頭を下げる。
「だめよ、本を粗末にしちゃ。特に、こんなおいしそうな本なんて大切にしなきゃ!」
と言いながら、はい、とリンネに本を手渡すお姉さん。
「はい。本当にごめんなさい」
さすがに、悪いと思ってるのだろう、リンネがしゅんとなっている。
「うん。わかればいいのよ。──それにしても、それ、あなたの本?」
と、リンネの手に収まった本を指差す。
「はい。って言っても、私のじゃなくて、私のうちの本ですけど」
ちなみに、今日リンネが読んでいるのは、佐々木丸美の崖の館。ママさんも、外で読むのだから、と手加減してくれたらしい。
「そう。いいわよね。佐々木丸美──とっても不思議な味。素朴な材料を使ってるんだけど、できたのはとっても味わい深くて。素材の味を引き出すだけじゃなくて、遠くの記憶まで引き出してくれるの」
うっとりと語りだすお姉さん。
「子どもころに飲んだ、レモンジュースのような、少し切ない味よ。──あなたには、そのおいしさがまだわからないかもしれないけど」
僕たちの周りにいるこれくらいの人って、Gかなって思うんだけど、Gとはまたちょっと違う、そう、Gよりもちょっと大人っぽいんだ。──ぺったんこだけど。
「へー、おもしろい!」
そんなお姉さんの話に、リンネは興味津々。どうやらリンネの面白いものレーダーにひっかかったらしい。
「ねぇねぇ、もっと面白いお話しして! あ、そう言えば、私リンネよ」
本格的にこのお姉さんと仲良くなりたいらしいリンネが自己紹介。
「そう? じゃあ、佐々木丸美と言えばね、館三部作が──と、私も自己紹介しなきゃね」
ちょっと照れたように笑って、
「遠子って呼んで。文学乙女よ!」
高らかに宣言。秋風に、お姉さん──遠子さんの三つ編みがふわりと揺れた。
「でも、文学乙女ってなんですか?」
「だ、だって、さすがに大学生になって文学少女はないかなって──私だって、語呂が悪いのはわかってるんだから!」
ちなみに、遠子さんを気に入ったリンネが、箕作家に彼女を招待して大変なことになったりしたんだけど、それはまた別の機会ということで。
以上です。
疲れた。
Stella_NF @kotohito 壮絶な書籍争奪戦が起きそうな>リンネと遠子先輩がいる札幌
http://twitter.com/Stella_NF/statuses/940405309
という@ Stella_NF のpostから思いついたリンネと遠子先輩が出会ったら? という妄想でした。
……だから、ボク、二次創作とかできないんだって。
[Today' tune]Hello! Orange Sunshine/JUDY AND MARY