私の男(桜庭一樹)

私の男

私の男

うわああぁ、これは、もう、圧倒的だ。
それ以外に言いようがない。
赤朽葉や読書クラブのような、アバンギャルドな展開はなりを潜め、淡々と──そう、まるで、深く沈んだ澱のようなストーリー。
粘度の高い文章が、二人の濃密な関係を象徴しているかのよう。
北の、流氷が押し寄せる冬のオホーツク。
それよりも、どこか寒く感じられる、東京の空気。
凍えてしまわないように、肩を寄せる父と娘。


敢えて、繰り返す。
この小説は、圧倒的だ。


小説をそれほどたくさん読んでいるわけじゃないし、文学史もまともに知っているわけじゃない。
文章技法だって、無知というのに近い。
でも、そんなボクでも、たまに──年に1度か、もっと少ないかで、これはすごい、と思う小説がある。
この本は、それだと思う。
読んだときの衝撃は、赤朽葉を越えている。
その証拠に、まともな感想が浮かんでこない。
ああ、ここでもっと小説を読んでいたら、いろんな作品との対比などで、効果的な感想が書けたのに、とも思う。


この、自分の衝撃をほかの人にうまく伝えられないのが、とても苦しい。

[Today's tune]No Surprises/Radiohead