2010年セリオ誕生日記念SS
というわけで、今年もやってきましたセリオさん@To Heartの誕生日!
PC版のTo Heartが発売されたのが1997年、PS版、アニメでも1999年、アニメのRemember my Memoriesでも2004年なので、もう、かれこれ何年間セリオさんを愛しているんだろうか?
普通、誕生日の記念と言えば、ステキなイラストだとかなんだけど、僕は絵が描けないので、代わりにSSを書いてお祝いするのです。
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#To Heart HMX-13 SERIO 2010-02-12 Birthday ShortStory
#Title:私の物語
この間降った雪は、一日もたたずに消えて去った。それでも、まだまだ朝晩の冷え込みは厳しくて、マスターは吹き込む風を遮るように、コートをしっかりと着込んで出かけます。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
見送った後、それからわたしの長い時間が始まります。
あ、わたしは、セリオ。
HMX-13、来須川重工製の優秀な技術が結集した、高性能メイドロボです。
っと、自分自身で高性能とか言ってしまいましたが、実際には、そんな高スペックな訳ではないですよ? できることと言えば、掃除洗濯炊事などの家事と、事務仕事くらいですから。そんなの、人間の皆様なら普通にこなしているものですよね?
というわけで、お洗濯──マスターのシャツを真っ白に! お掃除──マスターの部屋は、本とCDで溢れています……、も早々に終わり、昼くらいからは時間を持て余してしまいます。
最近は、その暇な時間を使って本を読むようになりました。
ネットからダウンロードなどもできるんですけど、マスターがせっせと溜め込んでいる本を読みます。だって、せっかくだからマスターと同じ本を読んで、マスターとその本について話したいじゃないですか?
書棚から、本を手に取っては、表紙を眺めたり、中をぱらぱらとめくってみたりします。
「これは、新しいやつですね……」
この前読んで私も気に入った、半額弁当を巡って争う狼達を描いた青春小説の続きがありました。
「まずはこれを読みますか」
今日の一冊目、決めました。
…
……
………
…………
「うおおおぉ、熱い! 熱い!」
こほん。思わず熱くなってしまいました。
でも、それくらい熱い小説でとても良かったです。
「今日の晩御飯は、焼鮭にしましょうか」
一冊読み終わっても、まだ時間はあります。
「次は何を読みましょうか」
マスターは、どこにそんなに読む時間があるの? と思ってしまうくらいに本を買ってきます。そして──
「ああ、ここはまだ読んでない本ですね……」
当然の結果として、まだ読まれていない本が山と積まれています。
「そうだ!」
私が本を読むのは、マスターと話したいから。
だから、今まではマスターが読んだことのある本──つまりは、このまだ読まれていない本の山──積読というらしいです──から本を選んだことはありませんでした。でも、きっと、ここにある本だって面白いはず! そして、その面白いところをマスターに教えてあげよう。
そう思って、私はその本の山に手を伸ばしました。
「これは前に読んだシリーズの続きですね……」
せっかくだから、そういうのはまた別の機会にしましょう。
シリーズとかじゃなくて、今までマスターが読んだことのないものがいいですよね。
「これは、あのシリーズの続きだし、こっちは……あ、前に読んだことがあるかも」
マスター、本当にたくさん積んでますね……今まで読んだことがないものを探すだけでも大変です。
「この本は……まだ読んだことがないかも」
やっと探し出した、一冊の文庫。
表紙は、可愛い女の子のイラストではないので、どうやらいわゆるライトノベルと言うものではないと思います。
「さて、それではこれにしましょうか……」
ぱらぱらとページをめくり始めます。
田舎町を舞台にした、少女と少女の物語。
あまりにも、切なくて、
あまりにも、痛くて、
でも、未来へと向かう意思をとても強く感じます。
彼女たちの未来を拓く弾丸。
私には、少女の時代がありませんでした。
産まれた時から、ずっとこの姿。
成長することも、老いることもありません。
けれど、もし、私に命と呼べるものがあれば、それは人間──マスターよりも早くに終わることでしょう。
そんな私でも、未来に向かって放つ弾丸があれば、そう思わずにはいられませんでした。
本当にいい本を読みました。
「ただいまー。お、今日は焼鮭か!」
マスターが帰ってきました。
「はい。おいしく焼けていればいいのですけれど」
「大丈夫大丈夫。セリオが失敗するなんてないだろ?」
うん、マスターの言う通り、今日の焼鮭も会心のできです。
「ところでマスター、今日は本を読んだんですけど──」
と、先ほどまで読んでいた本について話します。
どれだけ面白いか。
どれだけ感動できるか。
どれだけ、彼女達から力をもらえるか。
「うんうん。やっぱり面白いよね」
とマスターも同意しています。
「って、マスター、あの本読んでるんですか?」
どうして? 積読の山に埋もれていたのに!
「いやぁ、前に違うレーベルから出てたのを読んでたんだけど、やっぱり、新しい版が出たら欲しくなるじゃん? だからそれで買ってきたんだけど、もう一回読み直そうと思いながら、ずっと積んでるままなんだよね」
はははっ、て笑うマスター。
「──せっかく、マスターに面白い本を見つけてあげた、と思ったのに……」
なんか、今日一日が、ちょっと残念な結果になってしまいそうです。
「でもね」
いつの間にか私の後ろにまわったマスターが、私の身体に腕をまわしてきます。
「うれしかったよ」
「どうしてですか? 一度読んだことのある本をああやって勧められても……」
マスターにとっては、私が話したようなことは、すでに知っていることでした。
「そんなことは関係ないんだよ。それよりも、セリオが僕のために本を薦めてくれたっていうのがとてもうれしいんだ」
マスターの優しい声が、耳カバーを通して私の回路に流れます。──こっそりと録音しているのは秘密ですよ?
「マスター……」
そう言われて、私もうれしいから。
ネジと歯車の身体、半導体の心。
そこに生まれた想い。
マスターが私を愛してくれたから、
私もマスターを愛することができた。
だから、
「私も、マスターといられて幸せです」
言葉とともに、マスターの腕に手を添えて、私の想いを伝えます。
「セリオ、僕が君に砂糖菓子の弾丸も、実弾もあげられないかもしれない。僕が君にあげられるのは、僕がセリオが好きだという事実だけ。それでも、いい?」
「もちろんです。私には、それで十分です」
マスターに想われて、私は、想うことを知りました。
それは、楽しい、うれしいだけじゃなくて、
時には切ないかもしれないし、
時には耐えることが必要かもしれません。
それでも、私にとっては、かけがえのないたったひとつの想い。
「マスター。私も、大好きです」
この声が、想いが、消えないように。
溶けてしまわないように。
この世界が、優しい想いで溢れますように。
私は、祈ります。
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と、こんな感じです。
セリオが薦めた本は、砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない/桜庭一樹という設定です。
実際、角川文庫版を積んでます。
いや、もちろん富士ミス版は読んでるんですけど。
だからというか、なんというか。
本って、好きなんだけど、だからというか、逆に人に勧めにくいっていうか。
あ、もちろん、同じような趣味というか、
ラノベ好きの人が相手であれば、ラノベは勧めたりとかはできるんだけど、
そういう小説でのつながりの人以外に小説を勧めるのって難しいよね?
なんて思ったりします。
なんていうか、その人に、自分ってこういうのが好きなんだ、って、
何か深いところまで見せてるみたいで、なんか恥ずかしい。
だから、逆に、自分が勧めた本を面白い、って言ってもらえたら、
とってもうれしいです。