WANDS

私と同じく、貴重な時間となるはずだった10年間が失われた10年だと言われている人なら、WANDSというアーティストの名前を覚えているはずだ。
Be-ing系アーティストというのがあった。
耳に馴染むメロディに、当たり障りのないラブソングだとか、薄っぺらい明日への希望なんかを歌っていたアーティストの集団だった。
WANDSは、その集団の中心的なグループだった。
繰り返し聞き続けたからか、失われた、とは言え最も多感な時期に聴いたからか、「愛を語るより口づけをかわそう」だとか「もっと強く抱きしめたなら」だとか「世界が終わるまでは…」など、耳に残り続けているメロディばかりだ。
そして、WANDSといえば、これらの曲ばかりが有名で、彼らがどうなったかを知らない人が多い。
結論から言えば、WANDSは解散した。
それも、終わった、という解散じゃなくて、まさに空中分解。
THE CLASHと比べても遜色ないくらいな解散だった。
原因は、ボーカルの上杉昇だった。
彼の音楽が変質していったのが原因だった。
それは、その後上杉昇が作ったバンドal.ni.coやソロでの音を聴けば一目瞭然だ。
甘い、疑いのないラブソングから、生きているという事実さえに疑いの目を向ける猜疑心の固まりのような、溜まった澱を掻き出すような楽曲。
その曲は、すでにWANDSのものではなく、結局はそれが解散の原因となった。
さて、状況説明はここらへんまで。これから本題にはいる。
そうやって音楽性、世界観が変わっていくのだが、一気に変わっていたというのではない。
WANDSの後期、手探りで進むようにその変質は進行していった。
その変わりゆく世界観と変わろうとしない音との間の鬩ぎ合い、それが奇跡のような名曲をいくつも作り出した。
例えば、「Plese tell me Jesus」なんて、ポップなメロディに前期では考えられなかった恋の言葉が乗る。詩の内容は、「彼女の恋人はボクの友達」系、しかも寝取られ系、みたいなっ。……それが、どこまでも心地良いメロディに乗る。
ベストアルバムのラストを飾る「AWAKE」もそんな名曲のひとつだ。
アップテンポのメロディに、勢いのあるギターが乗る。
メロディだけなら、どんどんと前に進んで行ける、そんなことを歌った曲に聞こえるかもしれない。しかし、この曲の詩は正反対の内容を歌っている。
今、停滞しているのはわかってる。何かやらなきゃいけないのだって知っている。
このままだと腐ってしまうのは、誰に言われなくたって、自分が一番実感している。
けれど、まだ何もできない。まだこうしてまどろんでいるだけ。
必要なのは、目覚めることさ……
そんな、むしろどこへも行けないよ、という歌である。
錆び付いたマシンガンで今を撃ち抜こう、そう歌ったのと同じ人間が歌っているとは思えない。
しかし、この矛盾こそが、WANDSの魅力なのだ。
成長、変化、変容、堕落、進化、何とでも名付けるが良い、とどまり続けるのではなく、それが前向きなのか後ろ向きなのかわからぬままに進んだ結果が、ここにはある。

[Today's tune]AWAKE/WANDS