女王国の城(有栖川有栖)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

有栖川有栖、待望の江神シリーズ最新刊!
思えば、浪人の頃にミステリに出会い、大学に入ってから初めての夏休みで、「月光ゲーム」「孤島パズル」「双頭の悪魔」を読んでから、もう何年経ったのだろうか? ──数えればすぐわかるけど、時の流れの残酷さを感じるのはいやなので、敢えて数えない。
あの頃は、アリスやマリアと同い年くらいだったのが、いつの間にか江神さんの方が、年が近くなってしまった。
それほどの年月が経ち、ボクも少しはミステリを読み、その中にはもちろん有栖川有栖の著作もあり、あの頃よりは、少しは「ミステリ」というものがわかったつもりになっている。
しかし、本格ミステリの輝きは変わらない。
論理の糸は、細いながらも美しく物語を綾なしている。
些細な事象が、真相に絡みつく様に、恍惚すら覚える。
確かに、あの頃読んだ、前三作とは、文章が違う。
本格ミステリの論理と双璧のようにそそり立っていたロマンチシズムは、あれほど大きく主張することはなく、代わりに、静かな思想が確かな存在感を示している。
けれども、ロジックの冴えは、健在。
「まさか」と思いつつも、事件が解明されたあとに残るのは、「ミステリの原則」に則った、正統なトリック。
ちょっと気になる点もあったけど、それは、稚気としておこうと思う。
そう思えるほどに、良かった。
うん。そうだ。
単純に、「良かった」と言いたい。


最近は、とらえどころのない不安に駆られることが良くある。
薬を飲んでも消えることのない、茫洋とした感覚。
今のボクの、そんな感覚を消してくれる──千々に乱れた心に平静を取り戻してくれるのは、小説──わけてもミステリだ。
いや、嘘じゃなく、ほんとの話。
思えば、浪人という、来年の自分さえ確かじゃない1年を支えてくれたのが、ミステリだった。
大学生という、捕まえられない希望と絶望が横たわった4年間を支えてくれたのが、ミステリだった。
もう、今のボクにとって、ミステリというものは、決して欠くことのできないものなんだな、と。


と、ミステリとボクについては以上。
「ネタばれは書かない。なぜなら隠すのが面倒だから」という理由で、肝心のミステリ部分については書かないよ?
というより、そう言うところを書いて分析できるほど、ボク、ミステリ読んでるわけじゃないし。
そんなわけで、蛇足的なところをいくつか。

  • アリスとマリアのシーンが良かった! いや、これは非常に意外。だって、マリアといえば、「日本ミステリ三大うざいヒロイン」のひとりだよ? それが、「あのシーン」が結構良かったんだって。もう、びっくりだ。ちなみに、第十七章5のラストのところね。持っている人は、心して読むように。
  • ZOIDで、某メイドさんに「有栖川有栖って、BL作家ですよね?」といわれたことに絶望した! いや、確かに、中年オヤジ二人が旅行したりいろいろしているけど。一応、鮎川哲也に見いだされ、新本格ムーブメントを綾辻行人とともに牽引、日本ミステリ界の第一人者として、本格ミステリ作家クラブ初代会長も務める人なんだけど……